当たるも八卦。

「ちょっ、ちょっ、そこのあなた!」
「えっ、ボクのこと?」
「そうよ。あなた、時間あるわよね?」
「いや、ないっす」
「いいから!ここに座りなさい」
「占いでしょ?ボク、間に合ってます」
「私をそんじょそこらの
占い師と思ってもらったら困るわ。
私はね、私が占ってあげたい人だけ
占う占い師なのよ。
誰にだって声をかけてるわけじゃないの。
あなた選ばれたんだから感謝しなさい」
「ほぇ?選ばれた・・・ボクが?」
「そうよ。だからここに座って!」
「でもボク、占いって・・・」
「信じるものは救済されるのよ!
あなた、救済されたくないの?」
「はっ、救済?そりゃまあ、されたいですけど」
「けど?けどなによ!」
「時間もないし、それに・・・」
「それに?」
「占いってあまり信じてないんです」
「いい?よく聞きなさい。
あなたの名前は片桐誠。38歳。
生まれは・・・横浜ね?血液型はB
これでもまだ信じられない?」
「え〜っ!どうして分かったんすか?」
「さっきも言ったでしょ?私はそんじょ・・・」
「そこらの占い師じゃない・・・かぁ」
「分かっているならそれでいいわ。
あたしのこと少しは信じる気になって?」
「えぇ、かなりぶったまげました!」
「さあ、なにを占って欲しい?」
「ん〜、未来のことは未来が来れば
分かるから、過去のことの方がいいかな。
ぼくの前世ってどんなだったんでしょう」
「いいわ。それじゃ左の耳を見せて」
「えっ、耳・・・うら・な・い?」
「そうよ。人間の過去や前世は左耳、
未来や来世は右耳を見て占うの」
「これでいいっすか?」
「ぅわっ!あなたってすごいわ。
あなたの前世は南部鉄器の急須よ。
ずいぶんいいカタチしてたわね〜」
「はっ、キュウス?キュウスって
お茶を飲むときのあの急須?」
「そうよ。どう?嬉しいでしょ」
「ボクの前世は生き物じゃなかった・・・」
「あら、しょんぼりすることないじゃない。
とってもステキな急須よ。
江戸中期の武家のおうちで、
それはそれは大事に扱われていたみたい。
ずいぶん長生きしたわね〜。
あなたキスする時、タコみたいに
口をとんがらせるでしょ。
それは紛れもなく前世の名残りよ」
「ど、どうしてそんなことまで・・・」
「だから言ったじゃない」
「そんじょ・・・」
「そ!」

「ねぇタカちゃん、そろそろ夕飯にしない?
せっかくの味噌汁が冷めそうだよ」
「そうね、じゃあ今夜はここまで。
明日の朝食の前は誠君がペテン師の役、
あたし、騙されないからね」

イキシアの紫が鮮やかな朝。
横浜の空は灰色に覆われていて
ミストのような雨がフロントガラスを
濡らすようになってきました。
午前中はテニス、午後からは仕事。
なんとなく充実しそうな火曜日なり。

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