水面を渡る月。
一昨日はちょっと遅く帰宅し、
ちょっと我慢していたお酒を
ちょっとしたおつまみとともに
ちょっとだけ飲んでベッドに入りました。
でもいつもよりちょっと目が冴えて
ちょっと本でも読んでみるかと
本を胸の上に乗せた途端
気を失ってしまったようです。
こういう寝方をするとたいていは
夢などまるっきり見ないで
朝までいってしまうのですが、
夜中というか朝方というか
珍しく不思議な夢を見ました。
南米のどこか分からない夜の街を
ふらふら歩いていると
ソンブレロハットを被り
ちょび髭を生やした太っちょの
オヤジに突然声をかけられ
巧みな話術に騙されてリング上で
ツキノワグマと対決するハメになりました。
もちろんリングなんかに上がりません。
対戦相手の夕飯になるのは
ごめんですからね。
私はリングが設営されたイベント会場を
逃げ出して(イライラするほど遅いのですが)
闇夜の街を息を切らしながら走っていると
やがて貯水槽だかプールだかに出たのです。
水槽の向こう側に誰かが立っていて
私に向かって盛んに床を指差しています。
なんだろう。
その指示に従って下を向くと
野球のグローブが置いてあります。
拾い上げて指を通すと私の手に馴染む。
あら、これ、いいじゃない。
右手で拳を作ってパンパンと
感触を確かめていると
水槽の向こうからボールが飛んできました。
私は胸の前でそれを捕球したのですが
そのボールを見るとそれはボールではなく
小さな月だった。
触るとクレーターのゴツゴツした感触があり、
夜光塗料でも塗られているのか鈍く輝いている。
精巧にできているなぁ。これ、欲しい。
投げ返したくない。そう思っていると
水槽の向こうの相手が早く投げ返せと
言わんばかりにグローブを高く掲げました。
仕方なく私の投げ返した小さな月は
水面に映りながら一直線に飛んでいきます。
よし、もう一度飛んできたら
それを持って逃げてしまおう。
でもそんな私の心が読まれたのか
私がグローブを高く掲げても
もう相手が投げてくることはなかった。
そしていつの間にか左手にはめていた
グローブも消えてなくなっていた。
夢から覚めた時、不思議なことに
あのゴツゴツした小さな月の感触が
まだ右掌にはっきりと残っていたのです。
いま思うと水槽の向こうに立っていたのは
ツキノワグマだったのかも知れない。
※写真は常照寺境内に続く石段と二天門。