8月の終わりに見た夢。

どこか知らない町を歩いている。

最初は見慣れない景色を楽しむように

気ままな散歩程度のペースで

気持ちよく歩いていたのだけれど、

徐々にペースが速くなっている。

ぼくの足がなにかを探し始めたのだ。

あの角を曲がったら出会うかも知れない、

あの切り通しを抜けた所で見られるかも、

あの高台から見渡したら見つかるかも、

そんな思いに駆られて速くなるのだった。

汗ばみ呼吸が荒くなり鼓動が激しくなる。

ぼくの足はなにを探しているのだろう。

ふと立ち止まって空を見上げると

今にも降り出しそうな雲が広がっている。

体力が急速に消耗していくのを感じる。

やがて目の前に広い森が現れた。

たぶんここを抜ければ・・・

森の中は道を見失いそうなほど

鬱蒼としていて濃い霧に包まれていた。

もう歩けない、ここで少し休もう。

そう思って木の切り株に腰を下ろしたら

黄色いユリノキの葉が1枚落ちてきて

ぼくの膝の上にそっと乗った。

「あなたの探しているものは

残念だけど見つからないわ」

ユリノキの葉が膝の上に立ってそう言う。

「どうしてぼくの足が探しているものを

きみは知っているの?」

「あなたの歩き方で分かるの。

あなたの足は海を探しているのよ」

「海・・・」

「だけど間に合わなかったわね。

いま吹いているこの風は秋の始まりのしるし。

秋が始まると海は消えてしまうの」

「そんなことあるわけないよ。

去年の秋、ぼくはほとんど毎週末

海の道をウォーキングしていたもの」

「あなた、ひょっとしてそこで

人懐っこい海鳥に会わなかった?」

「鳥って海辺のチャーリーのこと?」

「そう、彼は恐ろしい魔法使いなの。

彼はすっかり消えてしまった海を

幻の中に作り出して美しい波であなたを誘う。

幻想の海の中へとね。あなた泳げる?」

「ううん」

「だったら新しい春を待つことね」

「新しい春・・・わかったよ」

そう言った途端ぼくの足は力をなくして

切り株から立ち上がれなくなってしまった。

この暗い森の中で体力の回復を待つ。

どこか遠くの方でフクロウが鳴いている。

もうセミは鳴かないのだろうか。

「夏が終わってしまったからね。

でも大丈夫。春になれば海は現れるから」

それまでぼくはどこにいれば・・・」

ぼくが膝の上に目を落とすと

もうユリノキの葉はすでに消えていた。

それと同時に足に立ち上がれるくらいの

力が戻ってきたみたいだったので

立ち上がってユリノキの葉を探していると

森の中だとばかり思っていたけど

ぼくの後ろには幻想の海が広がっていて

波間になにか小さな生き物のような

ものがゆらゆらしているのが見えた。

目を凝らすとそれは海辺のチャーリーで

背中に先ほどのユリノキの葉を乗せていた。

波と遊ぶみたいに楽しそうにゆらゆら。

海辺のチャーリーとユリノキの葉は

友だちなのだろうか。

幻想の海はどこまでも神秘的で美しかった。

本物の秋の海のように。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です