私にしか分からないこと。
遠い昔の陽の暮れた公園のベンチに
置き忘れてしまった大切なものを
時空を超えて取りに行かなくては。
今ならそれができるかも知れないと思った。
まだ残っていると固く信じる気持ちと
もう跡形もなく消滅しているのではとの
不安な気持ちが交錯して私の中で揺れ
時空の移動が速くなったり遅くなったり。
「信じて進めばまもなくそこに着くはず」
樺色の帽子を目深に被った男が言う。
私はそれに「うん」とだけ短く答え、
気持ちを奮い立たせて進んでゆく。
さまざまな色が私の顔の左右を横切り
次から次へと後方に飛び去ってゆく。
なにものにもとらわれることなく突き進み
見覚えのある景色が現れると
もうすぐだという予感が
気持ちをさらに急かせた。
胸が高鳴り不思議な涙で目が潤む。
急峻な坂道を一気に駆け上がると
公園は当時のまま私の前に出現した。
ピラミッドを模った黄色いジャングルジムが
目印となってそれを教えてくれている。
呼吸が苦しく額と手のひらが汗ばむ。
あのベンチは私の遠い昔の記憶通りに
木立の向こう側で眠っていた。
私の到着を待っていたかどうかは分からない。
私はしばらくその前に立ち
乱れた呼吸を整え、そして静かに座る。
懐かしい草の匂いと樹々のざわめき。
あの時、置き忘れた大切なもの・・・
それが現れるのを待つあいだ
秋の始まりを感じさせる涼やかな風が
私の身体を一度だけ吹き抜けていった。
一瞬の中の永遠を思う。
まもなくコオロギたちが歌を歌い
満ちた月が昇ってくる。
今夜から明日未明にかけて晴れていれば
スーパームーンが観測できるらしいです。
この満月は地球から最も遠いところに
あった2月6日の満月より直径が約14%大きく、
面積も約29%広いそうです。
なんだかワクワクします。すごく楽しみですね。
(月出時刻18時03分、月没時刻3時34分)