満月の夜に(Chapter_02)

もうここから出られないかも知れない。
そんな半ば諦めの気持ちで歩いていると
前方に大きなカラマツの樹の根元に
時代遅れのような古ぼけた自販機が
ぽつんと一台置かれているのに目が留まった。
なんでこんなところに・・・
電源が入っていないばかりか
サンプルがディスプレイされていないため
なんの自販機か外からは分からない。
不思議に思いながらもチラリと
一瞥しただけで歩を止めたりはしなかった。
ところがほんの数歩歩いたところで
背後にモーターが作動する不気味な音がして
背中に戦慄が走り足がピタリと止まった。
唾を飲み込んで振り返ると自販機の中で
なにかが落ちる柔らかい音がした。
取出口からその一部が飛び出しているのが
月明かりのもとでもはっきり分かる。
とても怖かったけれど気になって引き返し
恐る恐る引っ張り出してみると
それはシリコン素材でできたマスクだった。
マスクは口鬚を蓄えた無表情の老人・・・
裏を返すとそこにはびっしりと
文字のようなものが書かれている。
月明かりに晒すとそれは梵語のようだった。
ぼくはそれを見た瞬間ぞっとしてマスクを
自販機に向かって投げつけ一目散に逃げた。
あまりにも慌てて逃げたものだから
足がもつれて体勢を崩し
木の枝に躓いて転んでしまった。
その際激しく脛を打ちつけたけれど
怖さで痛さは感じない。
すぐさま立ち上がって後ろを見ると
先ほどのマスクがくるくる回転しながら
ぼくに向かって飛んでくる。
そしてそのままぼくの顔に張り付いたのだ。
ぼくは恐ろしさのあまり悲鳴をあげた。
マスクのせいでそれがくぐもって聞こえる。
顎とこめかみのあたりに指をかけ
必死で外そうとするのだけれど、
どうやっても取れない。
手と膝が震え腰砕けになり
格闘しているうちに意識が薄れていった。

 

continue to chapter_03

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

private

前の記事

衝動買い。