満月の夜に(chapter_01)

ぼくはひとり頭上で輝く月明かりに
照らされた夜の森の中を歩いている。
歩きながら出口を探しているのだ。
だけど森は想像以上に深く
行けども行けども視界が開けない。
ある山岳小説に”円形彷徨”という
言葉が出てきたことを思い出す。
人間は方向感覚を失うと
同一地点を彷徨い歩くようになるという。
もしかしたらいまのぼくも
そんな状態なのではと疑う気持ちが
時間の経過とともに強くなっている。
ランドマークとなるような目標物はない。
だけど立ち止まっているより闇雲でも
歩いているほうが気持ちが落ち着く。
ここで聞こえるものといえば
落ち葉を踏み歩く自分の足音くらい。
試しにしばらく立ち止まってみると
たちまち冷たい静寂が辺りを支配した。
その静寂に小さな穴をあけるように
どこか遠くでたまに梟が鳴くのだけれど
すぐさまその穴は塞がり
またもとの冷たい静寂が訪れる。
静寂が支配すると何者かに冷たい目で
見つめられているような気がして怖くなり、
ぼくはその恐ろしさを振り払うように
前よりいっそう速く歩こうとするのだった。

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