消しゴムでは消せない言葉。

ずっと波の音が聞こえていた。
リョウはカエデを呼び出したものの
どう切り出したらいいか迷い
いたずらに時間ばかりが過ぎていく。
「ねぇ見て、あの雲、
UFOの母船みたいに見えなくない?」
「UFO?母船?どこ?」
「あの雲のカタチがよ」
「あぁ、なんだ、雲のことか」
「あらいやだ、あたしちゃんと
“あの雲”って言ったわ」
「あっ、ごめん。
ちょっと別のことを考えていた」
「リョウ君、別のことってなに?」
「・・・・・」
「言いたくなければべつにいいの。
ただリョウ君、さっきから
ずっと黙ったままだから
わたしといるのが退屈なのかなって」
「そうじゃない、それは誤解だよ。
ごめん。別のことってさぁ」
「別のことって?」
「・・・うん・・・」
「うんじゃ分からないわ。
わたしには話したくないことなの?」
「そうじゃないよ」
「なら言う?」
「うん。あのさぁ、ぼくが今日、
カエデを呼び出したのは・・・」
「・・・はい!」
「なんて言おうかと考えてたことが
カエデの顔を見た途端に
頭が真っ白になっちゃって・・・」
「いいよ。それならリョウ君が
思い出すまでずっと待ってるから」
「あのさぁ、こういう時って
口の中がカラカラに乾くね」
「こういう時・・・」
そう言いながらカエデは
目の前に広がる海に目を向ける。
リョウはずっと聞こえていた波の音が
遠のいていくように感じた。
カエデはもうUFOの母船には
見えなくなってしまった雲を見上げ、
言葉を潮騒の中に放つように
「新しい形になろうとしているわ」と言った。
リョウも空を見上げる。
でもリョウの心には雲ではなく
カエデの大きな瞳が映っていて
その瞳にリョウの心の中が
覗かれているようでとても緊張している。
「ぼく、カエデと一緒じゃない時、
いまカエデはどんなふうに
過ごしているのかなっていつも考えていた。
無性に声が聞きたくなったり、
たまらなく会いたくなったり。
もっともっとカエデのことを
しりたいなってさ。
ぼく、たぶんカエデのことが
好きみたい、いや、大好きみたい。
・・・ん〜、よく分からないよ。
カエデがぼくのことを
どう思っているかわからないけど
ただぼくが思っていることを
ありのままカエデに伝えたら
少しは気持ちが楽になるかなって」
リョウはそこまで一気に言ったあと、
カエデに笑顔を見せようと
思ったけれどそれができない。
リョウの目には涙が薄っすらと浮かび
それが徐々に盛り上がって
葉っぱの上の朝露がこぼれるみたいに
一粒こぼれ落ちた。
カエデはリョウの言葉に驚きながら
なにか熱いものに胸が満たされて
いくように感じた。
いま自分の血が身体の中を
駆け回っているんだと思った。
「リョウ君、わたし嬉しい。
なんだか雲の中にいるみたい」
そう言いながらカエデはバッグから
ハンカチを出してリョウの頬にあてがった。
「カエデだって泣いてるくせに」
「リョウ君、わたし、泣いてるの?」
「ぼくの3倍くらい」
「そんなに?」
「だれがどうひいき目に見てもさ」
「わたし、ひどい顔?」
「ぜんぜん!」
「でも泣いてる」
「うん、どうやらぼくも、みたい」
「リョウ君・・・わたしも大好き。
いつもリョウ君と一緒にいたいって
ずっとずっと思ってたわ」
「それ、ホント?」
「ホントよ」
「いま・・・どんな気持ち?」
「あら、さっき言ったわ、
雲の中にいるみたいって」
「あぁそうだった」
「リョウ君がわたしの言うことを
もっとよく聞いてくれたら
もっと好きになると思う」
「ごめん、ぼく、いま・・・」
「わかってる。いっぱいいっぱいなのね。
わたしもいっぱいいっぱい。喉カラカラ。
あっ、そうだ!よかったらこれ飲む?」
「チオビタゴールド2000・・・
カエデ、こういう時ってフツーはさぁ、
オランジーナとかポカリとか・・・」
「だってリョウ君ったら急に呼び出すんだもの。
冷蔵庫にあったの、これ2本だけだったのよ」
「いいよ。チオビタ、飲もう。
カエデと海を見ながらチオビタ。
忘れられない日になったよ」
「ほら見て、あの雲!
ハンマーヘッドシャークみたい」
「・・・えっ、どこどこ?」
「あそこよ」
「あー、なんだ雲か。びっくりしちゃったよ」
「あらいやだ、あたしちゃんと・・・」

ふたりは同じタイミングで吹き出した。

って、そういうことが書きたいわけじゃ
ありませんでした(笑)!
今日運転しながらラジオを聴いていたら
こんな話を小耳に挟んだのです。
消しゴムに好きな人の名前を書いて
それを誰にも見つからないまま
使い切ったら恋が成就すると。
それ、ホントかい?
もしそうなら早速買いに行かなくちゃ。
いちばん小さい消しゴムを10個ほど。
「まあ!あなたってサイテーね!
リョウくんの爪の垢でも煎じて
エスプレッソで飲むべきよ!」

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