樹の上で。

「ミン、ミン、ミン、ミー」

「・・・なぁ、なぁ、おめえさぁ。
そんなちっちぇ鳴き方じゃミンミン女子に
気づいてもらえねぇぜ!
ミンミン男子ってぇもんはよぅ、
こう腹に力溜めてよぅ
もっとバシッとでっけえ声で鳴いて
女子を呼び寄せるもんだぜ」
「ではどのような鳴き方をすれば・・・」
「いいか、オレが手本を見してやるから
その通りやってみな」
「はい」
「いいか、よく聞いてろよ。
ムィ〜〜ン、ムィン、ミン、ミン、ミィ〜ッ!
どうだ?素晴らしい鳴き声だろ?」
「はぁ。でもボクはそんなふうな鳴き方は・・・」
「できねぇってか?なに恥ずかしがってやんでぇ。
そんな鳴き方してたらあっという間に
夏が終わっちまうぜ。それじゃ寂しすぎるだろ?
さぁ、聞いててやるから鳴いてみな」
「むい〜ん、むいん、むいん、む〜」
「なんだ?おめえ、オレをからかってるのか?
平仮名なんかで鳴きやがって。
ミンミン男子ってもんはよぅ、
カタカナで鳴くもんよ。
さぁ、もいっぺんやってみな」
「ムい〜ん、ムイん、ミン、ミ〜」
「おぅ。だいぶマシになってきたじゃねえか。
その調子で練習してりゃぁ、そのうち
ミンミン女子が寄って来るってもんだぜ。
いいか、忘れるんじゃねぇぞ。
ミンミン男子の鳴き声はだなぁ」
「カタカナ・・・ですかね」
「そうよ!女子を痺れさせるような
元気な声でシャウトして
ここらでいちばん強えぇオトコになれ。
この夏はオレたちの人生の集大成だからよ」
「そうですよね。暑いとか疲れたとか
言ってられないですよね。
ボク、命のあるかぎり
思いっきりシャウトし続けてみます」
「それでこそミンミン男子ってものよ」
「ミンミン男子・・・」
「いいミンミン女子に巡り逢えるといいな。
じゃ、オレはそろそろ行くぜ」
「ありがとうございます。
あのぅ、せめてお名前だけでもお聞かせ・・・」
「なぁに、ただの通りすがりの者よ。
礼にはおよばねぇぜ」

そんな会話が樹の上で交わされたかどうか
知る由もありませんが、
とにかく今朝はとびきり騒がしかったです。
火傷しそうな恋の季節、命ギラギラ、ギラギラ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

gooblog

前の記事

時の箱の中で。
gooblog

次の記事

熟睡と夢の話。