桜を眺めながら。

常照寺。
 桜の花
 らに埋め尽くされた境内。
 大本堂の周囲に立つ樹ばかりではなく、
 裏手の山の上にある樹からも
 惜しげもなく境内に降り注がれていた。
 
 桜は樹の中に命があるのであって
 花自体にそれはない。
 なのにあたかも花一輪一輪を
 もしくは花びら一枚一枚を生命体と感じて
 その無垢な美しさや哀れさ儚さに
 人生を重ね合わせてしまうのは
 万物すべてに命が宿っているという
 古来からの思想が私たちの中に
 染み着いているからなのかも知れない。
 人生は短い。
 そのことを今よりもっとずっと
 若い頃に理解していたら
 今とは違う生き方をしていただろうか。
 人間は先のことばかりに思いを馳せて
 今という時を感じながら
 生きることがあまり得意じゃない。
 桜の花びらが咲き散る光景を眺めていると
 なんだかそのことをそっと教えてくれて
 いるような気がしてくるのです。


