東京の懐かしい思い出。

私が東京で仕事をしていた頃のことです。
 クライアントからの度重なる修正指示や
 レイアウトの組み直し依頼に辛抱強く対応し、
 身体がボロ雑巾みたいに疲れ切ったまま
 やっとの思いで京橋にある広告代理店に
 納品のため自転車に乗って出向きました。
 たしか夜中の2時くらいだったと記憶しています。
 薄暗いビルの横に自転車を止め、
 エレベータを降りて代理店のドアを開けると・・・
 煌々と部屋のライトがついているけど
 スタッフたちのいる気配がない。
 ふと大きな作業台に目を落とすと
 [ 飯を食べに行ってきます。
 しばらくお待ちください]とでっかく私宛のメモ。
 そのとき誰もいない部屋の中で
 CDラジカセから流れていたのは
 ノラ・ジョーンズの甘く気だるい歌声でした。
 仕方なしに私は空いている椅子に座って
 しばらくその歌声をぼんやり聴いていました。
なんかすっごく心に染みるなぁ。
もちろん彼女の曲は当時ラジオからよく
 流れていたので知っていましたが、
 こんなに疲れ切った状態で聴いているうちに
 なんだかポロポロと涙が流れてきました。
 泣いたというわけではありません。
 涙だけが大きなあくびをした時みたいに
 流れてきたのです。
 たぶん3曲くらい聴いたあたりで
 エレベータが動く音が聞こえてきましたので
 私は慌ててティッシュで目と頬を拭き
 なにもなかったふうを装って
 椅子から立ち上がりました。
そんなことがあってからは
 彼女の歌声が流れてくるたびに
 あの頃のことを思い出すようになりました。
そのノラ・ジョーンズが10月に来るらしいです。
 彼女の歌声が聴けるならなんとしても聴きに行きたい!
 現在、私は諸事情を抱えていて
 それが実現するかどうかは当日までわかりませんが、
 ひとつ”心待ちにする”という楽しみができました。


