本音と立前。
コカコーラに味の素を振り入れて
紅生姜のみじん切りと一緒に
一煮立ちさせて冷ましたもの。
それを逆立ちしながら飲んだら
分身の術ができるようになるって
秋葉原の占い師に教えられた。
さっそく試してみると
仕事の上でもプライベートでも
色々なことができるようになった。
建前の自分はすごく当たり前で
欠伸が出るほど面白くなかった。
本音の自分はひどく不安定で
自分がどこに向かおうとしているのか
分からないほど危なっかしく感じた。
それでもぼくは本音の自分が
たまらなく好きだった。
ぼくは分身の術ができるように
なる前は本音で生きることを
知らなかったんだと思った。
でもいまは違う。
ぼくは本音で生きる自分に
自由と可能性を感じている。
そしてもしかしたら
建前の自分なんて
必要ないんじゃないかって。
本音で生きると色々な場面で
軋轢が生じてだんだんつらくなるよ。
秋葉原の占い師はそう忠告した。
どういうこと?
まぁそのうち分かるさ。
・・・占い師は親切じゃなかった。
そのうちなにが分かるのだろう。
そこでぼくは夢から目覚めた。
なんだかモヤモヤしている。
今朝の天気みたいだ。
「建前の自分・・・キミはいいヤツ?」
「自分で言うのもヘンだけど
けっこうイケてると思うよ」
「ホントかなぁ。それって建前?」
「失礼なことを言うなよ。本音さ!」
「せっかくだから分身の術を使って
慌しい仕事場からも
冴えない天気の1日からも
こっそり抜け出して
“楽しい“を味わいに行こうと思う。
後は頼んだよ、建前君」
「なんでぼくだけ・・・グレてやる」
「あっ、建前君、それ、本音!」
「じゃあ一緒に連れてって」
「まぁ良しとするか」
「あっ、本音君、それ建前でしょ!」