本心を知っている存在。

「ぼくだけじゃない?」
「そう。みんな演じてる(笑)。
本当の気持ちは隠してるのよ。
どうしてだかわかる?」
「わからないよ」
「ちゃんと考えて!」
「ん〜、知られたくないから、かな」
「いい感じよ。じゃあ、
どうして知られたくないと思うの?」
「ぼくが頭の中で想像することって
楽しいことばかりじゃなく、
とてもイヤなことやバカげたこと、
ひがみ、おごり、逃げ、焦り・・・」
「つまり?」
「見せかけの自分と心の中の自分が
乖離していることに後ろめたさや
心苦しさを潜在的に感じるから」
「そうね。だけどそのかわり心の中を
隠せることで、いろいろなことを
自由に考えたり思ったりできるわ」
「そしてぼくの心の中はキミに筒抜け」
「ふふん」
「キミはどうやってぼくの心の中が
覗けるの?それが知りたい」
「わかったわ。
あなた集音マイクって知ってる?」
「知ってるよ」
「わたし秋葉原の秘密地下商店街で
ずいぶん前にそれを見つけて買ったの」
「はは〜ん、それをぼくの部屋に
こっそり取り付けた」
「違うわ。その集音マイクって
ちょっと変わってるの」
「どんなふうに?」
「カタチがないの」
「えっ、見えないってこと?」
「そうなの。その集音マイクを
あなたが寝ている時におへその中に
埋め込んじゃった」
「はっ?ぼくのへその中に?」
「そうよ。この集音マイクには
フィルターが付いていて
余計な音は消してくれるのよ。
心臓の鼓動、呼吸音、咀嚼音、
おなら、食べ物を消化する音、
独り言、シャックリ、ゲップ、
そういう音を消していくと・・・
何が聞こえると思う?」
「・・・心の声」
「えっ、どうしてわかったの?」
「話の流れだよ。多分そうかなって」
「心の声ってお腹の中にたまるのよ。
そのたまった声はおへそを通って
いずれ体外に排出されていくわ。
もちろんおへその出口で
声はすっかり消えてしまう。
だからおへその中に集音マイクを
埋め込んでおけば
あなたの心の声を拾えるの」
「へ〜っ!あのさぁ、
その集音マイクってやつ、
いったいいつつけたの?」
「あなたが生まれてすぐ」
「ってことは、ぼくがあの時
あんなヤバいことを考えていたってことも、
あの場面であんな恥ずかしいことを
思いついたってこともキミに・・・」
「えぇ、筒抜け」
「そ、そ、そんな〜!
それ、取っ払って欲しいんだけど。
いますぐに!」
「だめよ」
「どうして?
心の声って個人情報だよ。
しかもいちばん秘匿性の高い。
それをぼくに何の断りもなく
勝手に集音マイクなんかで・・・」
「だってあなたの心の中って
すっごく面白いんですもの」
「はっ、面白い?
ねぇ、冗談もいい加減にしてくれよ」
「あなたが怒るのも無理ないわね。
”面白い”は取り消すわ。ごめんなさい。
でもわたしが集めたあなたの心の声は
けっして第三者に開示されることは
ないから安心して」
「キミはその第三者じゃないの?」
「違う。わたしのイニシャルは”B”」
「B?イニシャルなんかじゃなく
フルネームを教えてよ」
「まだわからない?Bと言えば?」
「あっっっ!」
「わかった?」
「ブラックジョークが好きなもうひとりのぼく」
「ブッブー!ハズレよ。正解はね、
ブレーキペダルに足を乗せているもうひとりのあなた」
「なに、それ」
「心の中に湧き起こるすべての思いに
アクセルを踏んじゃうと取り返しのつかないことに
なる場合だってあるかも知れないでしょ?
あなたはちょっと変わっていて
放っぽっておいたらどこまでも行っちゃうタイプ。
だからアブナイと感じたら
すぐに止まれるブレーキが必要なのよ。
今までなんとか無事にやってこれたのは
ここぞという時にブレーキを踏めたから。
そしてそのブレーキを踏んであげたのは
このわ・た・し。
だからもっとわたしに感謝しなさい」
「・・・・・・・・・ありがとう」
「そう!その素直な態度がいちばん大切。
でもそのありがとうって本心じゃないわね」
「どうしてそんなことがわかるのさ」
「おへそは口ほどにものを言うのよ」

※フレディ、キミと暮らしはじめて1年。
私が教えてあげることよりも
キミから学ぶことの方が多そうだよ。
心の清らかさは目に表れるんだね。
その澄んだ眼差しってどうやったら
作り出せるんだい?

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