振り落とされないように。

地球は絶えずクルクル回っている。
自転速度は日本辺りで時速約1500km。
新幹線の最高速度の5倍に相当する。
赤道付近だともっと速い。
その証拠に自転速度の最も速い赤道付近と
最も遅い極点付近では遠心力の影響で
体重に差が出る。
冗談だろ?って思うかも知れない。
でも本当のことなのだから仕方ない。
ぼくたちがその遠心力で宇宙空間に
投げ出されてしまわないのは
重力があるおかげなのだ。

昨夜、なんらかの変化が起こって地球の
自転速度が徐々に速くなる夢を見た。
毎朝計っている体重計の数値が
日を追うごとに減っていく現象が起こった。
最初はダイエットが上手くいっていると
呑気に考えていたのだけれど、
30kgを切った段階で
さすがにこれはおかしいと気づく。
身体の変化は感じられないのに
体重が信じ難い数値を示し始めたからだ。
朝の散歩をしている時もなんとなく
月の上でも歩いているようにフワフワ。
だけど不思議なことにフレディには
そんな兆候は見られない。
すれ違う出勤途中の若い会社員らしき人々もしかり。
高架線の下をくぐって右に折れ
道なりにフワフワ歩いていると、
前から金属を引きずるような重い音を立てながら
かなり年を取った老人が歩いて来る。
すれ違いざまその足元を見ると
なんと老人は鉄下駄を履いているのだ。
「あのぅ、どうして・・・」
ぼくはびっくりして声をかけた。
老人は悲しそうな目でぼくを一瞥した後
歩を止めることすらせずそのまま鉄下駄を
引き摺りながら去って行った。
この世の水面下でなにか恐ろしいことが
進行しているのではないか。
それはなんだろう。
もしかしたらあの老人は鉄下駄を
履いていなければ浮き上がって
もう二度と地上に戻れなくなるのではないか。
ぼくのフワフワした足取りと
あの老人の鉄下駄はなにか関連があるのか。
あの老人は遠心力のせいでやがて宇宙へと
旅立つのかも知れない。
ということは体重の減り続けているぼくも
遅かれ早かれそうなる運命なのだろうか。
潜水夫が身体にオモリを巻き付けるように
ぼくはガレージにある鉄アレイを両手に
持って散歩している自分を想像してみた。
そのうちそれだけでは足りなくなって
先週植え替えたばかりのシクラメンを
植木鉢ごとデイパックに詰め込んで
背負いながら歩く羽目にでもなるのだろうか。
そんな出立ちじゃ女性にモテない。
そうだ!深釣りに使う200号のオモリを
ジャケットの内ポケットに忍ばせて
颯爽と歩けばいいのだ。
まだ鉄下駄を履くような年じゃない。
それでもフワフワ現象が進行したら?

「オモリをもう一本ですかね。
左右の内ポケットに一本ずつ入れれば
バランスも申し分ありませんね」
フレディが足元からぼくに助け舟を出す。
「よし、ワークマンに内ポケットの
いっぱい付いたジャケットを買いに行こう。
フレディ、キミも欲しいか?買ってやるよ」
「いえいえ、あっしはまだその必要は・・・」
「ないってことか?若いから?
えっ、それじゃご主人様はもうそろそろ
宇宙に飛び出しちゃうかもってこと?」
「・・・寂しくなります」
「バカも休み休み言いなさいよ。
ご主人様はまだまだ宇宙には行きません。
だいいちご主人様が宇宙に旅立ったら
困るのはキミでしょう」
「そのへんは大丈夫です。
お母さんが新しいご主人様に
なってくれるみたいですから」
「そ、そ、そんなぁ・・・」
あれっ?足が地面から離れ始めちゃった。
ぅわ、ぅわ!昇っていく。ぅわっ、たかっ!
「ご、ご、ご主人様ぁ、
リード、リード、リードを離してくだーい」

夢から覚めたぼくはこう思った。
地球の自転速度が速くなるのは
ぼくの夢の中で起こったことだけど、
世の中の回転速度はますます速くなっている。
スピンアウトしないように
しっかり情報や流行に追いついていかねばと。

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