招かれざる客。
犬や猫と違って海鵜は見た目が
どの固体も同じに見えるから
ぼくには識別することはできないけれど
先日の海の道の往路で出会った海鵜は
なんとなく8か月ほど前に見たあの時の
海鵜のチャーリーのような気がした。
朝早くて周りに人がいなかったから
思い切ってチャーリー!と呼びかけたら、
それまで沖をゆくタンカーのほうを
眺めていた首をクルッと回転させて
ぼくのほうへ振り返ったものだから
そんな気がしたのかも知れない。
あるいは名前にではなく
ぼくの声に反応しただけだったのかな。
まあいいや、チャーリーでなくても
チャーリーだと思うほうが楽しいですからね。
チャーリーはしばらくぼくを見ていた。
ぼくは足を止めたくなかったので
写真を撮ってすぐにランに戻った。
いつものように気持ちよくというか
苦しみながらというか
海沿いテラスの突き当たりで折り返し
復路でも見かけたらもう少し近づいて
写真を撮ってみようと思っていたけど
残念ながらもうその場所にはいなかった。
そのチャーリーが昨夜、
ぼくの夢の中にでてきたのだった。
ピンポンとチャイムが鳴って
ぼくが玄関のドアを開けたら
チャーリーが立っていた。
なぜかぼくは彼が来ることを知っていて
ごく自然に彼を家の中に招き入れた。
「あの日、磯の上でタンカーを見ていたのは
やっぱりチャーリー、キミだったんだね?」
「はい。あれはたしかに私でしたが、
残念ながら私はチャーリーではありません」
「チャーリーじゃない?」
「そうです。私の名前はベンジー。
ですがチャーリーの友だちではあります」
「そうだったんだ。まぁせっかく来たんだから
上がんなよ。ヨックモックがあるんだ」
「それはそれは。それではお言葉に甘えて」
そう言ってベンジーはぼくの後から
狭い階段をリズミカルな音を立て
ピョンピョン跳ねながら登って来て
2階のリビングの椅子の上に
ぴょこんと飛び乗ったのだった。
ぼくはアイスミルクティーを冷蔵庫から
取り出してヨックモックの箱を抱え
リビングに戻ってみると奇妙なことに
その椅子にはベンジーではなく
神主の格好をしたコビトが座っていた。
ぼくはびっくりしてヨックモックの箱を
思わず落としそうになってしまった。
「あなたは誰?ベンジーはどこ?」
「シンパイハ ヌ、ヌ、ヌ、ヌ、ヌ!」
コンピュータで作られたような不気味な声。
「ワタシハ カレヲ アンゼンナバショニ
ハコンデオイタ。イマハ スヤスヤ」
「眠っているって言うの?」
「ソヤソヤ。シカルニ シンパイハ ヌヌヌ」
「安全な場所ってどこ?」
「ニンゲンニハ ミエヌトコロダ。
ソンナコトヨリ ハヤク ヨックモックヲ
フルマエ!ソレガ ワタシノ ノゾミ」
ぼくは脅迫されているような恐怖を感じ、
それと同時にもしかしたらもうベンジーは
この世にいないのではと不安になった。
「ぼくはこの家にあなたを通した覚えはないよ。
ぼくはあなたじゃなくベンジーと話がしたい」
するとコビトの神主は悲しそうな表情を浮かべ
徐々に透明になっていき、やがて消えた。
ぼくはリビングを見回しながら
ベンジー、どこ?ベンジー、どこ?と
何度も繰り返しているうちに目が覚めた。
嫌な夢。夢は終わったのに
不安な気持ちはしばらく続いていた。
おかげで楽しいはずのフレディと朝の散歩が
ぜんぜん楽しくない。
あんな奇妙な夢を見るなんて
ぼくはもしかして疲れているのか?
散歩から戻って朝ご飯を食べ終え、
食べ残したシャケを冷蔵庫にしまう。
冷蔵庫の扉側にはアイスミルクティー、
冷蔵庫の上にはヨックモックの箱、
知り合いになったベンジーはどこ?
コビトの神主にはもう来てもらいたくない。
※年末年始の営業は下記の通りとなります。
仕事納め:12月28日
(29日は大掃除していますが電話対応可能)
仕事始め:1月5日
(4日は大掃除の続きをしていますので
電話対応可能です)