待ち時間に。

何台ものクルマやバスが

眼下の大通りを走り過ぎてゆく

信号待ちをして交差点を渡る人々

昏れなずむ街を吹き抜ける夏の風

なにもかもがどこかに向かって

川のように流れている

打ち合わせの時間までゆとりがあったので

ファミレスから見える景観を

ぼくはしばらく眺めていた

遠くなってしまった過去が再生され

街の景観とオーバーラップする

やがて街の景観は徐々に色を失って薄れ

モノクロームだった過去が

入れ替わるように色鮮やかに蘇ってくる

浅く落ちてゆく微睡に似た感覚

なにか声が聞こえてきそうな気がして

ぼくは過去に耳を澄ます

悲しいのか嬉しいのか

もしくはその両方が絡み合って

複雑な気持ちを作り出しているのか

このままあの過去に寄りかかり

しばらく心を預けてみたい

どのくらいそうしていたのだろう

時間の感覚はなかった

空間はほんの少しだけ歪んでいて

その歪んだ世界の中でぼくは

たしかにあの時の過去に没入していた

テーブルにコーヒーの器が置かれる音で

ぼくは現実に引き戻される

交差点はさらに暗くなり

相変わらずクルマも人々も

忙しそうにどこかに向かっている

ぼくはスマホで時間を確認する

まもなくクライアントが到着する時間だ

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