将軍と女王。

ヒュー!

「・・・だれ?」
「おれ?冬将軍だけど」
「えっ?呼んでないわよ」
「そんなつれないことを言うなよ。
はるばる大陸から海を渡って
やって来たんだからさ。
労いの言葉をかけるとか
マッサージチェアを差し出すとか
なんかないの?」
「あるわけないじゃん。
呼んでないんだから」
「おれ、なにもきみに呼ばれたから
来たわけじゃないよ。
昔からのルーティーンなんだよ、
この時期日本に行くってことがさ」
「ルーティーン?だれが決めたの?」
「おれ、おれ!
こう見えても、おれ将軍だからさ」
「偉いの?」
「ああ。きみが思っている以上にね。
あっ、そうそう、これ、きみにやるよ」
「なに?」
「開けてみればわかるって」
「まさかインフルとかじゃないわよね」
「そんなひどいことをおれがすると思う?
いいから開けてみなよ」
「・・・・・ぅわ〜!雪だるまの
キーホルダーじゃん。かっわいい!」
「どうだ、気に入った?」
「うん、とっても!サンキュー」
「ところでちょっと聞くけど
日本もいま流行ってるの?コロナ」
「第8波の真っ最中。
タイミングが悪かったわね、将軍さま。
それにあなたのせいでインフルまで
流行り始めたらみんなあなたを恨むわよ」
「そんな〜!おれとインフルは無関係。
おれが持って来たのは木枯らしと
雪だるまだけ。勘違いしないで欲しいよ」
「だけどみんなはそうは思わないわよ。
・・・いいわ、あたしがかくまってあげる。
さぁ、ここに入って」
「え〜?それ、マンホールのフタじゃん。
そんなところに入ったら
日本が冬にならなくなっちゃうよ」
「あたしの言うことが聞けないの?」
「聞けない、聞けない!
冬将軍がそんなとこに入ったら
末代まで自然界の笑い者。ごめんだね」

「・・・・・クスン・・シクシク」
「おいおい、なにも泣くことはないでしょ。
しょうがないじゃないの、冬を届けるのが
おれの役目、ルーティーンなんだから」
「あなたがここにやって来たら・・・
あたしはここから去らなければならないの」
「去る?せっかくきみとは仲良しに
なれるかもって思ってるのに
どうして去らなくちゃいけないの?」
「だって、あたし、秋の女王なんですもの」

******************

まもなく石段を冬が上ってきます。
明日以降に降る雨は秋の女王の涙かも。
さよなら、秋の女王!また来年ね。

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