夢の枕(6/6)

「実存しない人との会話って
なんだかおかしいよね。
自分自身との対話ってこと?」
「つまり私が豆ノ森さま・・・
ということでしょうか?」
「そう」
「ここが夢の中ということでしたら
その可能性もあります。
ですが豆ノ森さまはここが現実であることを
認識なさっていらっしゃいますし、
私もそのように認識しています。
自己完結するような会話などというものは
会話として成り立たないのではないでしょうか」
「それならぼくが夢の中で会った父は
夢の中のみに存在するってこと?」
「お父様は夢の中というより
お父様と親交をもたれるすべての方々
それぞれのお心の中に存在し、
それが豆ノ森さまの場合は
枕を媒介することで顕在化したと
そんなふうにご理解されたら
いかがでございましょう」
「心に残る父の記憶だけで
父の夢が構成されるなら
夢の中に呼び出したとしても
新しい発見や事態の進展は望めない気がするよ」
「たしかにそうかも知れません。
でも豆ノ森さまは既知のお父様に
向かって謝罪の気持ちを表した。
そのお気持ちを持ち続けていらっしゃれば
いずれお父様はご子息さまに向き直られます。
大切なのはそう信じ続けることです」
「うん」
「死者も生きる者もマイナスの
感情を持ち続けることはできません。
時期が訪れれば和解は実現します。ご安心ください」
「夢野さん、明日も会いに来てくれる?
・・・あれっ、夢野さん、
身体が少しずつ透けていくよ。
帰るんじゃなく、消えていくの?
夢野さんと話がしたくなったらどうすればいい?」
「豆ノ森さま、大丈夫でございます。
あなたとお父様は和解されます。
それが分かっているから
私は心置きなく消えていけるのです」
「ダメだよ、ぼくはまだ不安だよ」
「豆ノ森さま、自信をお持ちなさい」
「じゃあどうするのさ、この枕」
「残念ながら・・・・・」
「残念ながら、なに?」
「・・・・・」
「夢野さん、あなた・・・
なんだか父と同じ匂いがするよ。
母がそっちの世界に向かっているから
しっかり受け止めてあげてね?」
もう透過率が90%を超えている
夢野荒野の像は、像というより靄のようになった。
それでもその靄が微笑んでいる、
豆ノ森空也はそんな気がした。

(おわり)

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