夢で会った。
銀座松屋のエレベータの扉が開くと
中にジョン・マッケンローが乗っていた。
着ている服がテニスウェアではなく、
グレーのジャケットにブラックのチノパン、
それにパナマ帽を目深に被っていたから
ぼくはその人が彼だと全く気づかなかった。
ちょっと笑っちゃうことに
なぜか右肘にはマジソンスクエアの
スポーツバッグが下がっていたんだ。
エレベータの中はぼくと彼しかいなかった。
ぼくは操作パネルの前に立っている彼に
「すみませんが7階のボタンを押して
もらえませんか?」とお願いしたら
振り返って神経質そうに笑いながら軽く頷き
「7階には何があるんだい?」と聞かれた。
その瞬間初めてその人がマッケンローだと
気づいてものすごく驚いたのだった。
ウソだろ、なんでこんなところに・・・
ぼくは口ごもりながらミルクカップを
買いに来たって答えた後で
サインがもらいたい衝動に駆られたけど
迷惑かなと感じて思いとどまった。
「あなたは何を買いに来たんですか?」
ぼくがそう聞くとマッケンローは
「アジフライを買いに来たんだけど・・・」と
ぼくに助けを求めるように目尻を掻いた。
「えっ、アジフライ?それなら下の階です。
地下に食品売り場がありますから」
そんな経緯があってぼくは光栄にも
マッケンローの買い物に付き合うことになった。
エレベータで一気に地下2階まで下り、
エレベータホールに出ると、そこは
鏡の部屋になっていて迷路が広がっていた。
どうやら降りる階を間違えたみたい。
戻ろうと慌てて回れ右をしたら、
もうそこにはエレベータはなく
崎陽軒の特設コーナーができていた。
せっかくだからぼくはシュウマイ弁当を
ふたつ買って彼にひとつあげた。
彼は不器用にお辞儀をしてから
弁当をマジソンスクエアの中に入れて笑う。
マッケンローが探していたアジフライは
鏡の部屋の奥の方で見つかった。
何度も爪先やおでこをぶつけながら。
「キミはテニスをしたことがあるのかい?」
「大好きです。ぼくはあなたの大ファンです」
「ぼくのことを知ってるのかい?」
「もちろんですとも!」
「じゃあお礼に今から一緒にテニスしよう。
屋上にテニスコートがあるそうだから」
「ラケットとかボールとかどうするんですか?」
ぼくが聞くとマッケンローは
右肘に下げたマジソンスクエアを掲げ
左手で軽く叩いてから親指を立てた。
それからぼくらは金網の張り巡らされたコートで
ストロークラリーをして楽しんだ。
ぼくはマッケンローのネットプレーを
見たかったので一度わざとストロークを短く打ったら
アプローチを打って前に詰めてきたので
フォアのショートクロスを打ってぼくも前に詰めたら
マッケンローはそのボールをロブのボレーで
ぼくの頭上を抜いてそれがそのままエースとなった。
その芸術的なラケットワークにぼくはポカ〜ン。
それからぼくらはベンチに座って
シュウマイ弁当を仲良く食べ、
弁当の木の蓋にサインをしてもらった。
夢の中の出来事だったのだけれど
夢を見ているような時間だった(笑)。
だけどマッケンローがアジフライが好きだとは
チョー意外だった。
たぶんこれから先、シュウマイ弁当を
食べるたびにこの夢を思い出すに違いない。