味わい損なった味。
初日の出って、
感動的でドラマチックだから、
太陽が地響きを立てながら昇ってきても
荘厳な音楽と共に現れても
よさそうなものなのに、
実際はなんの音もしないんですよね。
いたって静かに粛々と昇ってくる。
効果音はいっさいなし。
元日未明に
初日の出を見にいく夢を見ました。
犬吠埼目指してクルマを走らせています。
カーオーディオからはJ.J. Caleの
“Strange Days”がリピートモードで
流れていて私はかなりノリノリ気分で
ステアリングを握っています。
このまま順調に走り続けたら
早く着き過ぎると思った私は
途中で高速を降り、
一般道を行くことにしたのです。
未明の一般道は交通量がほとんどなく
信号で止められることもなく進みます。
市川の辺りを走っている時でしょうか、
前方の道路脇に白い看板が
風に揺れているのが見えたのです。
手前でスピードを落としよく見ると
その看板は風に揺れているのではなく
少年が両手で掲げて振っていたのです。
看板には”アサリ”という文字が見えます。
こんな時間になぜ少年が
こんなことをしているのか分かりません。
私はひどく気になって少年の前で
クルマを止めました。
カーオーディオのボリュームを絞って
助手席側のウインドゥを下ろし、
ここで何をしているのか尋ねました。
するとその少年はしばらく私を見つめた後で
「アサリ、買ってくれませんか。
昨日採れたばかりの幸運のアサリなんです」と
音のない声で言いました。
幸運のアサリ?
少年の説明では冬の半月の夜は
アサリたちが一斉に砂から入水管を出して
海水を透過した月の光を身体の中に
摂り入れるのだと。
三日月では弱すぎるし、満月では強すぎる。
半月の光がいちばんいいらしい。
閉じた世界で過ごすアサリにとって
半月の光は希望そのもの。
そして少年は最後にこう付け足したのです。
「希望は幸運を呼び寄せる
とっても大事な栄養素なんです」と。
「なるほど」
私はその幸運のアサリを買うことにしました。
いくらだったのかは覚えていません。
私は買ったアサリのビニール袋を
助手席の足元に置き再びボリュームを上げ
犬吠埼に向かいました。
残念なことにそこで夢は終わりました。
でもなんだかすごくいい夢だった気がします。
目が覚めた時はもうとっくに
青空が広がっていました。
もしもあそこで目が覚めずに
夢を見続けていたらたぶん
初日の出を見られたかも知れない。
荘厳な音楽とともに昇ってくる朝日を。
元日の昨日の夕方はフレディと一緒に
清水ヶ丘の秘密のスポットから
沈みゆく夕陽を眺めていました。
初日の入りです。(載せた写真がそれ)
完全に日が落ちると西の空が徐々に
美しいオレンジに染められていきました。
南の空にはアサリが喜びそうな半分の月。
月の淡い光はアサリにとって希望の光、
そして幸運をもたらす光。
それは夢に教えてもらったこと。
幸運のアサリかぁ、食べてみたかったなぁ。