勇気を出して。
「おまえ、口は堅い?」
「龍安寺の石庭の石みたいだって
みんなから褒められるほどさ」
「石庭の石?」
「そうだよ。だって石は
ペラペラしゃべったりしないだろ?」
「まぁそうだけど、なんで龍安寺?
相模川の河原の石だって
口が軽くはないと思うけど」
「おまえは自分の大切な秘密を
相模川の河原の石に打ち明けたいか?
やっぱり龍安寺の石庭の石の方が
打ち明けやすいだろ?」
「たしかにそうかも知れない。
じゃあおまえを龍安寺の石庭の石と
思って打ち明けるけど」
「なになに」
「なんだよ、その身の乗り出し方、耳の傾け方、
好奇心丸出しっぽいよ。
おまえ、ホントに堅いの?口」
「だから龍安寺クラスだって!
なんでも打ち明けてみろよ。
気持ちが楽になるからさ」
「そうだよな。あの、この間さぁ、
あっ!おまえなにやっちゃってるの?
スマホ出して録音ボタンなんか押しちゃってさぁ」
「だってオレ、忘れっぽいだろ?
だから大事なことはこうして・・・」
「録らなくていいから!
ただ黙って聞いていてくれるだけで
オレじゅうぶんだから」
「録る必要ない?」
「ないない!あるわけないじゃん!
だいいちオレの秘密なんか録音して
どうするつもりなのさ」
「持ち帰ってじっくり検討するんだ。
おまえの言葉の裏側には
いったいなにが隠されているか」
「いやいや、隠されてなんかいないから。
検討なんかだってしてくれなくて
全然かまわないから。
フツーに聞いてくれよ。
スマホはさっさとしまってさ」
「これでいいか?友よ」
「うん。誰にもしゃべるなよ」
「わかってるって」
「じつはオレ、気になる女子がいて、
そのぉ、なんていうか勉強がまったく手に・・」
「つかないってきたもんだ!
その女子って赤羽のことだろ?」
「シーッ!声がでけえよ!
なんだおまえ知ってるのか」
「あったり前田のクラッカー!」
「それ、いつの時代のギャグだよ。
でね、先週の木曜日の夕方・・・」
「おまえはヨーカドーのヨシダで
赤羽と鉢合わせした。
赤羽は日能研のバッグを背負っていたから
『これから塾?』っておまえは声をかけた」
「なんでそんなことまで知って・・」
「るんだって不思議に思うだろ」
「あぁ。驚き、桃の木、山椒の木」
「おまえだってギャグに関しちゃ
オレと同レベルじゃん。
そもそもおまえ、昨日帰りがけに
宮本をつかまえておんなじ
打ち明け話をしてなかった?」
「あっ!さては宮本のヤツ、
オレの秘密をおまえに
しゃべっちゃったんだな」
「まぁ宮本を悪く思うなよ。
あいつにはあいつの事情ってものが
あったんだしさ」
「宮本の事情?それってなに?」
「聞きたい?」
「そこ、大事だろ」
「なら言うけどさ、宮本も赤羽のことが
好きだってオレに打ち明けてきたんだ」
「えっ!?宮本が・・・」
「あぁ。ライバル出現だな。
どうやら宮本はおまえも赤羽のことが
好きみたいだって薄々勘付いてるみたいだった。
だから気になるんだろうな、おまえの行動が、さ。
だけどおまえにしろ宮本にしろ
そういう相談てオレにじゃなく
赤羽本人に打ち明けるべきじゃね?」
「それはそうだけど」
「昨日おまえが宮本に相談を持ちかけた時、
宮本はなんて?」
「ただ黙って聞いてくれてた。
別れ際に頑張れよって」
「頑張れよ・・・かぁ。
なら頑張った方がよくね?」
「だって宮本だって・・・」
「世の中誰かのために尽くすとか
犠牲になるって聞こえはいいけどさ、
恋愛って奪い合いじゃねぇかなぁ。
どれだけ相手のことが好きかってことを
アピールした者勝ちかもよ」
「宮本だって赤羽が好きなのに?」
「じゃあなにかい、おまえと赤羽と
それに宮本を交えて3人で楽しく
付き合いましょってことでいいのか?」
「・・・よくないよ」
「だろ?おまえは赤羽が好き、
これはおまえと赤羽の問題だ。
宮本も赤羽が好き、これは宮本と赤羽の問題だ。
ふたつの問題はまるっきり別!
オレは勇気を出して本人に打ち明ける方が
男としてカッコいいと思うぜ」
「なんだかドキドキだな。赤羽の前に立ったら
真っ赤になっちゃうかもしれないし
ガタガタ震えが止まらなくなるかも」
「それでいいじゃん。
震えが止まらなくても逃げない。
オレが女ならそういう男が好きだな」
「片桐!おまえに相談してよかったよ」
「だけど安心しねぇ方がいいよ」
「どうしてさ」
「オレもな、赤羽が好きなんだ」