シンクロニシティ。
3日前の土曜日に奇妙な体験をした話です。
たまに走りに行く海の道の途中にある
小高い丘の上の見晴し台で
不思議な石を拾いました。
べつに変わったカタチをしているとか、
珍しい色をした石とかではありません。
はっきりとは覚えていませんが
それより1週間ほど前に
エンゼルパイくらいの大きさの
灰色の石が冷凍庫の中に
入っているのを見つける夢を見たんです。
誰が何のために入れたのか分かりません。
指で触ってみると当たり前ですが冷たい。
いや、単純に冷たいというより
むき出しの寂しさみたいな感触が
手触りで伝わってくるのです。
たぶんぼくはその石を生き物だと
思い違いしていたのかもしれない。
だからこのままでは死んでしまう、
助けてあげなくてはと使命感に駆られて
手の中で温めてあげることにしました。
次第にぼくの手のひらが凍りつくほど
冷たくなっていく。でも・・・
そのぶん石は温まっているに違いない。
そう思うと冷たさに耐えられるのです。
ぼくはいったいその石をどんな生き物と
思い違いしていたのだろう。
しばらくすると灰色だった石が
徐々に黄金色へと変化していきます。
まるで命を宿し始めたみたいな感じ。
ほとんど感覚を失いかけていたぼくの手も
揉み手をすることで血が通い始めます。
もう大丈夫だろうと石を陽の当たる
暖かいリビングの出窓に置き、
小さな達成感を味わいながら朗らかな
気持ちで石を眺めている、そんな夢でした。
それから1週間経過した3日前の土曜日、
もう夢のことなんて忘れていたのですが
丘の上のベンチで休憩していたら
瑠璃色をした羽をもつ美しい鳥が一羽、
近くにいることに気づきました。
鳥は半分ほど地面に埋まった石の上にいて
そこから動かずに嘴でその石を突いてる。
ぼくはすぐにどこかへ飛び去って
しまうだろうなと思いながらも興味が湧いて
ベンチから立ち上がり鳥に近づきました。
ところが鳥は逃げないどころか
なにか大切なことをぼくに告げるみたいに
囀りながら嘴で足下の石を突き続けている。
石を掘り起こして欲しそうなしぐさ。
ぼくがしゃがみ込むと鳥は瑠璃色の羽を
小さく羽ばたかせて石から降り、
ぼくの挙動をじっと見つめています。
時間にするとほんの5秒くらいでした。
石を掘り起こして手のひらに乗せた瞬間、
あの夢で見た石のことが蘇ってきたのです。
それと同時にぼくが驚いて鳥に目を向けると・・・
あれ?鳥の姿はどこにもない。
羽ばたく音さえ気づきませんでした。
飛び去ったというより消えてしまった、
そんな感じです。
ぼくは手が汚れるのもかまわず
石に付いた土を払い両手で挟んで
しばらくそのままじっとしていると
徐々に石が温まっていくのが分かります。
あの美しい鳥はどこに消えたのだろう。
もしかしたら、まさかそんなはずは・・・
ぼくは石を持ち帰ることにしました。
帰りのクルマの中でも左手に握りしめ、
信号で止まるたびに指で擦って
磨いていましたので家に着く頃には
すでに光沢が出るほどになっていました。
落ちている石は持ち帰らないほうがいい、
そんなことを聞いたことがあって
なにか良からぬ霊力を帯びた石だったらと
少し心配ではありますが、いまのところ
特別なことは起こっていません。
仕事部屋に置いて時々眺めています。
夢の中に出てきた石とこの石が
同じものかどうかは分かりませんし、
瑠璃色の鳥はぼくが気づかないうちに
ただ飛び去っただけなのかもしれない。
でも、ただひとつ言えることは
石がぼくの手の中にあった時の感覚が
とてもよく似ているということなんです。
福音を告げる石だったらいいなと
なんとなくソワソワして楽しいです。