グラデーションのように。
川面を渡る晩夏の朝の青い風
もう早くも秋の匂いを含んでる
ぼくとフレディは
その涼やかな風の中をゆく
もうじき秋の匂いが強くなり
すぐに本物の秋の風に変わる
それは過ぎてしまったあの
すべてを焼き尽くすような
獰猛で激しい季節の痕跡を消し去って
時の副作用のように喪失感や
寂寥感が立ち上がってくるのだ
「フレディ、感情ってなんだと思う?」
「うーん、気持ちの色・・・ですかね」
「気持ちの色?」
「そうです。
虹は7色と言われていますがよく見ると
それはグラデーションになっていて
色と色の間にも無数の色が存在します。
同じように喜怒哀楽という
4つの感情の間にも名前のついていない
たくさんの感情が絡まったり
混ざったりしながら新しい感情の色を
作り出しているような気がするのです」
「フレディ、キミは本当に犬かい?」
「はい。宇宙からやってきた
未知の生命体ではありません」
「確かにキミが言うように人間の感情は
時として複雑な層を成すのかも知れない」
「それは犬も一緒ですよ」
「これはこれは。失礼!
フレディも見かけによらず複雑な感情を
持っているんだね」
「ご主人様、見かけによらずは余計です」
「これまた重ね重ねの失礼。
ところでフレディ、秋は好きかい?」
「はい。秋は夏の後にやって来るから
いいのでしょうね。すごく正しい気がします」
「夏の後に秋が来る、かぁ・・・
考えてみたら四季それぞれの間にも
細かな季節が存在しているんだね」
「盛夏、晩夏、初秋、仲秋、晩秋、初冬・・・
だんだん寒くなっていくんでしょうね」
「その細かな季節の移ろいを感じながら
これからも仲良く散歩していこうね」
「はい。ご主人様のダイエットのためにも。
また毎日の過激な走り込みで新しい朝を
こじ開けていきましょう」
「いや、そこまでじゃなくてもいいんだよ」