キラキラ!
「いらっしゃ・・あら?クゥさん」
「・・よぅ」
「どうしたの?しょんぼりしちゃって。
あっ、わかった!
また女の子にフラれたんでしょう」
「違わい!」
「フラれたわけじゃない・・・のね?
わかったわ。それじゃなにか飲みましょ」
「うん」
「今日は特別にクゥさんの隣に
座らせてもらおうかしら」
「え〜、ママ、エコ贔屓はダメだよ。
オレたちだって寂しいんだからさぁ」
「シンゴ君もミツル君も
楽しそうに高校野球のことで
盛り上がっているじゃない」
「楽しいひとときをママと一緒に味わいたいのさ」
「ありがと!ねぇジョージ、
この人たちに例のあれ、出してあげて」
「了解!」
「ぅわ!牡蠣の燻製?スッゲー美味そう」
「それでなんでしたっけ、
星稜高校の7回の攻撃のところで・・・・」
「ママはいつもオレにやさしくしてくれる」
「わたしねぇ、いつもなにかを
目指している人の目って大好きなの」
「まぁ、オレ、好きでやってる仕事だから」
「好きな仕事をして食べていけるなんて
羨ましいなぁ」
「うん。だけどオレ、食べていける
ギリのところで生活してるような気がする」
「それがいいんじゃない。飢えた男の匂い。
それがクゥさんの目を輝かせているのね」
「このオレの目が?飢えて輝いてる?」
「えぇ。だけどそのいつもの輝きが
今夜は曇っちゃって見えるわ。
なんでショボショボしてるの?」
「今日・・・会社を辞めてきた」
「へぇ〜・・・えっ?」
「今日でサラリーマン終了!」
「終了って・・・会社でなにかあったの?」
「いや、早期希望退職ってやつ。
いま辞めると退職金がそこそこ出して
もらえるから募集に手をあげちゃった」
「辞めて悠々自適に暮らしていけるほどもらえるの?」
「まさか!これから自分の会社を立ち上げて
勝負してみることにしたのさ。
・・・だけど正直、不安でたまらない。
自分で決めたことなのに
だんだん自信がグラグラついてきてさ」
「へ〜。ふーん。ちょっと一言いいかな。
自信がないのなら新しい再就職口を探す方がいいかも。
上手くいくかどうかわからないような
会社だったらわたし、つぶれると思う。
きついことを言ってごめんね。
だけどそれがわたしの正直な感想よ。
わたしもね、こんな小さな店だけど、
開くときは不安で不安でしょうがなかった。
でも自分がなんのためにお店を開くのかって
自問自答してみたの。
そしたら答えはすごく簡単だった。
うちに足を運んでくれるお客様がいるのなら
その人たちをうんと幸せな気持ちに
させてあげようって、
楽しく飲んで、ときには歌ったり踊ったり。
儲けのことよりお客様のことを第一に考えたの。
そんなこんなで気がついたらもう25年。
わたしはお客様に恵まれているわね、
みんなに応援してもらってるもの。
だけどこれはわたしの場合だからね。
クゥさんもなんのために
会社を立ち上げるのかを考えてみることも
大切なんじゃないかしら。
そしてそれが見えてきたら
きっと自信が湧いてくると思うの。
生意気なことを言っちゃったわ。堪忍ね」
「・・・ママ、今夜ここに来てよかった。
なんかオレ、感動して泣けてきちゃったよ」
「わたしも話し終わったら泣けてきちゃった。
ふたりしてヘンね。
オトコもオンナも涙の味って同じなのかしらね」
「おいミツル、見てみろよ」
「えっ、どっち?」
「右奥のカウンター!クゥさんとママ
あれ、ふたりとも泣いてるふうに見えない?」
「あっ、ホントだ。
きっとStand by meドラえもんの話をしてるんだよ」
「ドラえもん?映画の?」
「そうだよ。オレ、大泣きしたもん」
「おまえ、その歳でドラえもんかよ」
「観てみろって!わかるから」
「そんな金があったら、オレはサウナに行くね」
「サウナ?おまえとじゃ話にならんわ」
「オレだっておまえとなんかじゃ話にならんわ」
「なにを!」「なんだよ、やるのかよ!」
「ねえ、そこの中学生みたいな大人の人たち。
仲良く飲めないんだったら牡蠣の燻製、
お代をいただくわよ」