あの歌が聞こえる。

ぼくは20代の頃、
村上春樹さんの本をよく読んでいました。
当時は本当に貧乏で単行本が買えず
そのほかの本も含め手が届いたのは
文庫本ばかりでした。
初めての長編小説”風の歌を聴け”は
一人暮らしを始めた泉岳寺の狭い部屋の中で
読んだのを覚えています。
しかもそれはぼくが買ったものではなく、
大学時代の友だちが時間を潰すために
ぼくの部屋にやって来て読んでいる途中に
突然なにか大切なことを思い出したみたいで
慌てふためいて出て行ったために
忘れていったたものでした。
その時彼が忘れていったものは
もうひとつありました。
それはTDKのカセットテープ。
その90分テープの中身はどういうわけか
チューリップの”サボテンの花”1曲が
延々と繰り返されて入っているのです(笑)。
ぼくはそれをウォークマンで再生しながら
友だちが忘れていった”風の歌を聴け”を
なんとなく読み始めたのです。
それが村上作品を知るきっかけになりました。
が、そんなことが背景にあったために、
ぼくは村上作品を読むたびに
この曲を思い出してしまうのです。
友だちがあの時突然思い出したのは
女の子とのデートの約束だったらしく
約束の場所に着いたのは1時間半後、
どんな言い訳をしたのか知りませんが
結局破局を迎えたとのことです。
ぼくが単行本を買えるようになったのは
“ノルウェイの森”からでした。
それから”海辺のカフカ”を最後に
長く村上作品から遠ざかっていたのですが、
先日図書館で”女のいない男たち”に
目が留まって借りてみることにしました。
当時の”サボテンの花”事件のことは
もうすっかり忘れていたのですが、
家に帰って読み始めると早くも
頭の中にあの曲が蘇ってきました。
それと同時に当時のいろいろなことを思い出し
とても懐かしい気持ちになりました。
大学時代のその友だちとの関係は
今も続いていてときどき連絡を取り合って
たまにテニスをしたりしています。
肝心の”女のいない男たち”は文藝春秋に
掲載された短編小説と書き下ろしで
構成されています。読みやすくて面白いです。
だけどなぜ”サボテンの花”だったんだろう。
友だちに尋ねてみたい気持ちもありますが
触れないでおくほうがいいのかもしれません。
あの時友だちが本とカセットをセットで
忘れていかなければぼくは村上作品を読んで
必要以上に切なくなることはなかった。
それはたしかに言えることだと思います。

※今日はテニスの予定が入っていましたが
横浜は終日雨のため中止。
ドジャース対阪神の試合を観ています。
いや〜、阪神ファンではありませんが
今年の阪神は面白そうです。

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