禁断症状からの脱却。
半年ほど前のぽっちゃりのぼくが
困ったことに今のぼくを訪ねてきた。
「な、な、なにしに来たの?いまごろ」
「なにしに来たのとはご挨拶だぜ。
なぁに、どうしてるかと思ってよぅ、
ち~と寄らせてもらったまでさ。
元気そうじゃ・・・ねぇみてぇだな、
そんなにやつれちまってよぅ」
「やつれたわけじゃなく痩せたんだよ。
ダイエットしてやっとここまで」
「ダイエットだと?女じゃあるめぇし、
なんだってそんなことしてんだ?」
「生活習慣病予防検診で引っかかったのさ。
中性脂肪値がヤバいことになってるって
ドクターから脅かされてね。
ぼく、早死にするのはごめんだから
さっそく節制を始めたんだよ」
「節制?そんなことして面白れぇのか?」
「そりゃあ最初は辛かったさぁ。
今までなんの気兼ねもなく食べていた
塩っぱいものとか甘いものとか
脂っぽいものとかがぜ~んぶ
食べれなくなっちゃったからさ。
だけど頑張っているうちに
そういう食事に少しずつ慣れてきて
やっとここまで痩せてきたんだ。
もう絶対にきみのようには戻りたくないね!」
「そんなつまらねぇ痩せ我慢なんか
その歳になってまですることねぇだろ。な?
ここらで恰幅のいいオトコに
戻ろうじゃねぇか」
「冗談じゃないよ。ぼくはもう
ひと昔のぼくじゃないんだ。
健康的でスラッとした人間に
生まれ変わって素敵な人生を歩むことに
決めたんだ。放っといてよ」
「オレが一昔前のおめえで悪かったな!
ってやんでぇ!せっかくおめえのために
こんだけ買ってきてやったのによぅ」
「そのレジ袋の中身、なに?」
「おめえの好物の金吾堂の煎餅と
神戸ショコラ、佐野らーめん・・・・」
「ひと昔前のぼくって意地悪だったんだね。
そんなにぼくにひと昔前のぼくに
戻って欲しいの?」
「べつに欲しかねぇよ。ただよ」
「ただ、なに?」
「恰幅のよかったオレのイメージが
この世から消えちまうってのはよぅ、
ひどく寂しいもんだぜ」
「なんだ、そんなこと。ひと昔前のぼくも
今のぼくも同じぼくなんだから
世の中から忘れられたりしないさ。
顔の形が変わるわけでもないんだし」
「ふんとか?」
「ふんと、ふんと」
「じゃあそろそろ引き上げるとすっか。
オレのこと、忘れんなよ!」
「忘れるわけがないよ。
あっ、これ、忘れ物!持って帰って」
たぶんまたこれから先、何度も何度も
一昔前のぼくは訪ねて来るに違いない。
ぼくの大好物をレジ袋に入れてね。
だけどそれに怯むことはもうないと思う。
※写真はお腹が空いて我慢できない時に
飲むことにしている機能性表示食品のお茶。
禁断症状をやっつける強い味方。