熱風に混ざる魔法。

太陽が真上から容赦なく降り注ぐ
 辺りに影はほとんどできない
 真上に日傘を差していれば
 身体はすっぽり隠れるのだけれど
 暑さは日傘を回り込んで襲いかかってくる
 日傘を持つ手は汗ばみ
 額に吹き出る汗は目に入って滲みたり
 顎を伝ってTシャツを濡らす
 電車を使えばわずか10分くらいで
 着ける距離なのにぼくはいつもこの道を選ぶ
 たぶん歩きながら考えたいのだ
 歩いていると考えやすくなる
 目にする光景や景色から
 刺激や影響を受けるからか
 少なくとも動いていないときよりは
 少しは多面的に考えられる気がする
 ヒントらしきものが浮かぶことはあるけど
 歩くことでいい答えが出るとは限らない
 なのにどうして歩くことを選ぶのだろうか
 歩くその先になにかが待っている
 そんなふうに思えてしまうから
 近づきたくなって歩くのかもしれない
歩きながら時々日傘を傾け空を見る
 雲はどこにも見当たらない
 獰猛な陽光が直にぼくを襲う
 それと同時に蝉の声が降ってきた
 光と熱風と蝉の合唱の世界から
 家に戻ってエアコンのスイッチを入れ
 汗だくのTシャツを着替える
 足の筋肉の疲労が徐々に解けてゆく


