思い出。
「ねぇロバート、
“思い出“って何だと思う?」
「覚えている過去の出来事、かな。
ほら、初恋のこととか、
修学旅行のこととか、
そういうもののことだと思うよ」
「思い出って“記憶“とは違うの?」
「思い出は記憶の一部、かな。
覚えていることの中で心情的な何かが
加わっているものが思い出なのかも。
“記憶“は機械的で事務的で
どことなく冷たい響きがある言葉って
感じがするよ。
“思い出“は必ずしも甘いものばかりじゃ
ないかも知れないけれど、
なんとなく温度を感じる。違う?」
「違わないわ、素敵な答えよ。
言葉に温度を感じるって
よく分かる気がする。
たとえばロバートがあたしの目を
見つめて言う“ありがとう”と
自販機に言われる“ありがとうございました“は
同じお礼の言葉でも温度が違って聞こえるし
受け止め方だって違うものね」
「ジュリア、ぼくと自販機を
同じ土俵に乗せるところが
とってもジュリアらしくて好きだよ。
ところでジュリアの胸の中にある
いちばんの思い出はなに?」
「もちろんロバートと一緒に
過ごしたすべての時間よ。
その中でもピカイチは
富士急ハイランドのドドンパね!」
「ああ、あの時はマジで腰が抜けちゃった。
ジュリア、ぼくにも聞いて?」
「ロバートにとって今までで
いちばんの思い出ってなにかしら?」
「ジュリアと一緒に永遠を
見つけたことだよ。
永遠はスイカの味、だったっけ?」
「まあロバート!はずかしいわ!
またいっぱい見つけましょ?永遠」
「そうだね。いまも一緒だから
ぼくたちはわりと永遠の近くを
ウロウロしてるのかも知れないね」
「ロバート・・・」
チュッ!
「あたしたち、いつでも好きな時に
永遠の中に入ることができるのね」
な〜んて甘いことばかりではなく
嫌なことや恥ずかしいこと
辛いことや苦しいことだって、
味わい立ての時は忘れたくても
なかなか忘れられないものですね。
だけどそれらは時間が経ち
日にちを過ぎ年を経るうちに
だんだんと色が褪せ埃が積もっていく。
そしてある時風が吹くと
色褪せた思い出が蘇ってきます。
蘇った思い出はやっぱり
嫌だったり恥ずかしかったり
辛かったり苦しかったりするけれど
その思い出の鋭利な出っ張りの先っぽは
どことなく丸くなっている。
もちろんいつまで経っても
そうならない思い出だって
人によってはあるのでしょうが、
たいていの思い出は丸くなります。
なぜだかわかりませんが
きっとそうなったほうが楽なのでしょう。
※収穫時期を逸して巨大化したキュウリ。
こんなにデカくなるんですね。
一振りすればホームランが打てそう(笑)。