夢の枕(4/6)
ピンポーン!
「はい!」
「あのぅ、私、先日豆ノ森さまに
枕をお届けしました・・・」
「あぁ、夢野さん?」
「あっ、はい!さようでございます。
先日はお仕事の途中でお声を
おかけしてしまって大変失礼しました。
早速でございますが枕の方、
お試しいただけましたでしょうか」
「うん!試してみたよ」
「で、いかがでしたか?」
「それがさぁ、ここで話すのって
なんか恥ずかしいんだけど、
もう濃厚・濃密・濃艶の3濃が
揃い踏みするような激しい夢で超リアル、
あっ、ちょっと待ってて。
いま枕と報告書を持ってくるから」
「助かります」
「はいこれ!」
「あらぁ、こんなにいろいろと。
ここで読まさせていただいても
よろしいでしょうか?」
「えーっ、なんか恥ずかしいなぁ。
だってさぁ、オトコが見たい夢って
だいたい決まってるよね」
「はい。そういう方は多ございます。
健康な男性の方ならごく普通に
お望みになるのも自然なことかと」
「そう?読むなら恥ずかしいから黙読にしてよ。
ぼく、いま紅茶淹れてくるから」
「さようでございますか。それでは」
「紅茶、入ったよ」
「これはこれは。ありがとうございます。
私の方もちょうど読み終わりました」
「どう?かなり赤裸々に書けているでしょ?」
「確かに!これならR指定の読み物としても
成り立つくらいのレポートかと」
「でしょ?」
「ただ気になることがひとつ・・・」
「なに?」
「枕に付いているこのシミは?」
「シミ?」
「そうです。これはおそらく涙でできた
シミかとお見受け致しますがいかがでしょうか?」
「そ、そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか」
「いえ、これは確かに涙の跡、
しかも悲しみの涙かと存じます」
「悲しみの涙?どうしてそんなことがわかるの?」
「悲しみの涙は交感神経が刺激されて流れるので
副交感神経が刺激されて出てくる涙より
塩分が多くなるんです。
ほらこの成分分析装置の数値をご覧ください」
「・・・・・」
「べつに”3濃”の夢をお望みで
それをお楽しみになられたのなら
それはそれでけっこうでございます。
しかしながらもし豆ノ森さまが
まったく別の種類の夢をお望みになられたと
いうことでしたらどうか本当のことを
お話しいただけませんでしょうか。
手前どもとしましても
稀少な事例としてデータ分析の
層が厚くなるかと思います。
秘密は必ずお守りいたしますので
ご心配にはおよびません」
「・・・わかったよ。
それじゃ包み隠さず話すけどさ、
ぼくが見ようと思ったのは父の夢。
もうとっくに死んじゃったんだけど、
生前の親不孝を詫びたくてね。
どうか許してくださいって。
それを夢の中でどうしても伝えたくてね。
それと先日母も他界してまもなく父のところに
たどり着くと思うからよろしくってね。
ただそれだけを伝えたくて・・・」
「・・・そうでしたか。
お話しされにくいことを
よくお話ししていただきました。
で、お父様にはお会いできました?」
「うん」
「お父様のお許しは・・・?」
「わからなかった。
父はずっと背中を向けていた。
だから声も聞こえなかったし、
どんな表情かもわからなかった」
「でもお謝りになられたんですよね?」
「うん、なんども、ね。
でも振り向いてはくれなかった」
「・・・・・」
※夢の枕(5/6)に続きます。