イソギンチャクと写楽と。

「エリ、あなたってあたまがヘンよ。
あたしもちょっとヘンだって
たまに言われるけどあなたには負けるわ」
「なにを言い出すのかと思ったら・・
そんなこと突然言い出すなんて
ミミの方こそよっぽどヘンじゃない」
「あっ!あたし、ひょっとして
あなたを傷つけちゃった?」
「ええ。しかも深くね」
「ごめんなさい。
でも悪気があってのことじゃないわ。
あたしねぇ、エリをほめたつもりで
そう言ったのよ」
「はっ?ほめたつもり?
ちょっと冷静になって考えてみて。
誰かがミミに向かって唐突にこう言うの、
あなたのあたまってヘンねって。
あなたどう思う?」
「うれしい・・・かな」
「やっぱり!ほらね?
あなたの方がよっぽどヘンよ。絶対だわ。
もう末期症状かも」
「エリはうれしくないの?」
「あなたのことを親友だって思っているから
今回だけは許してあげるけど、
知らない人からそんなこと言われたら
鎖骨折ったるで~ってなっちゃうわ」
「まぁ!手荒なことはエリには似合わない。
あなたにはかわいらしいヘンな人で
いて欲しいと思っているの」
「・・・どうしてもヘンから
離れられないみたいね。
じゃあ聞くけどあたしのどこが
そんなにヘンなの?」
「このあいだのことよ。
あなたが海に行こうって言うからあたし、
カワイイ水着を買ったのよ。
こんがりいい感じに日焼けできる
高級なサンオイルやクールなグラサンまで
揃えちゃってさぁ。
そしたら着いた先が城ケ島の岩場。
ね?岩場よ。26歳の美しい女ふたりが
岩場の潮溜りでイソギンチャクの観察。
すぐそばでメジナ釣りに来ていた
エロオヤジたちが狂犬病にかかったような
表情であたしたちを見ていたのよ」
「あら、あたしはそんなのちっとも
気にならなかったわ。
潮溜りは楽しい遊び場よ。
イソギンチャクは嫌い?」
「ええ。エリには悪いけど好きじゃないし、
岩場だって好んで行きたい場所じゃないわね」
「そのわりにはあたしが
そろそろ引き上げましょうって言ったら
あなた、ちょっと待ってって。
それから延々2時間も蟹を
追いかけ回していたのよ。
だいいちミミが着ていた水着、
お尻に写楽の絵がデッカク入っていたわね?
フツー買う?買わないでしょう、26の女は。
いったいどこのお店に売ってるんだろうって
質問したかったくらいよ」
「あら、写楽はイソギンチャクよりかわいいわ。
ホントはあなたも着てみたいんじゃない?」
「んなわけないでしょ!
あたしはフツーの人間ですからねー!」
「フツーの人間?岩場の潮溜まりで
イソギンチャクを観察する女が?」
「あら、またそこに戻っちゃったわね。
お話を先に進めたらどうなの?
ヘンなお話だけど読んでくれてる人が
もしいたら悪いじゃない。退屈しちゃうわ」
「もうとっくに退屈よ。
面白くもなんともないわ」

「あのぅ、書いているのはオレなんだけど・・・」

「エリ、いまなんかオトコの声がしなかった?」
「えぇ、あたしにも聞こえたわ。
誰かしらねぇ、気持ち悪いわ」
「変な人だったらどうしよう」
「そうよね。あたしたちみたいな
まともな人間は相手すべきじゃないわ。
そっと気づかれないように退散しましょ」
「えぇ、それがいわ。タイサーン!」

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